Midterm Examination
中間演習(11月7日)の解説
問題1
タンパク質が酵素反応のような生体内での機能を実現する際に、弱い結合が重要な役割を果たす。なぜ、強い結合力を持つ共有結合ではなく、弱い結合が必要なのか、その理由を説明せよ。
解答例
酵素作用は触媒反応であり、最終的には基質分子が酵素から解離【5点】して酵素は元の状態に戻る。仮に酵素反応で共有結合が発生すると室温では切れないため基質が解離できず、その後の酵素作用ができなくなってしまう。それゆえ、酵素作用は室温でも結合・解離が可能な弱い結合【5点】を利用して実現する必要がある。
解説
生物が暮らす常温域(0〜40度Cぐらいの範囲)では、共有結合が自然に切れることはない。このため、酵素反応や運動機能、光反応などのタンパク質の機
能を働かせるためには、共有結合を利用することはできない。共有結合は一度くっついたらそれっきりなので、全ての構造が結合して動かなくなってしまう。逆
にファンデルワールス力のような弱い力では、生体物質がくっつきあって留まることができず、バラバラに拡散してしまう。このため、タンパク質は水素結合、
イオン結合、疎水性相互作用などの弱い力を利用して機能する。これはDNAやRNA、脂質の機能においても同様で、生命は弱い結合を上手く利用すること
で、生命活動を実現することができるのである。
このような生命の特徴を理解することは、これからの生体工学技術の発展には欠かせない。
問題2
生物は自ら進化することはなく、偶然の変化が積み重なって進化に至る。そう考えられる理由を説明せよ。
解答例
進化とは遺伝子の変化である。遺伝子はタンパク質を合成することで形質が発現されるが、その際に64種のコドンから、20種類のアミノ酸への翻訳が起きる。この形質としてのタンパク質から遺伝子を逆翻訳することは、20種から64種への対応で実現不可能【5点】である。それ故に、生物は方向性を持って遺伝子を変化させることはできず【5点】、偶然の変化によって進化するのみである。
ダーウィンの進化論:「偶然の変異が重なり、変化した生物の中で、環境に適応したものが生き残ることで進化する。」でも【5点】
解説
進化論は生物学の中でも昔から怪しげな議論の絶えない分野で、中には「人間は余りにもすばらしく作られているから、自然にこのようなものが生まれたはず
がない。何者かが意図的に創りだしたのだ。」と主張するものもいる。この議論が論理的ではないのは自明である。理由として「すばらしい」という主観的な評
価をすることは論理性を放棄することである。ここでの「何者か」は神のことを意図していて、神学分野の人間が神の存在を主張するためにつくった疑似科学の
明らかなデマである。しかし、「キリンは高い木の葉っぱを食べようとして首を伸ばしている内に、だんだん首が長くなっていった。」という説はどうだろう。
この説を論理的に否定することはできるだろうか?実はほど50年前までは、この説を否定することはできず、ダーウィンの進化論が間違っているのではないか
という議論があった。
しかし、セントラルドグマ(遺伝子の塩基配列からタンパク質が合成されるとする説)が立証されると、この議論に終止符が打たれた。コドンの塩基配列の
64種の情報からアミノ酸20種の情報を決定する事ができる。しかし、逆に20種のアミノ酸から64種の塩基配列を決定する事は論理的に不可能である。す
なわち、生命体も人間も神も、目的の形質(タンパク質、生命の特徴)に対して意図的にその遺伝子情報を創り出すことはできないのである。進化とは遺伝子の
変化であり、それがコントロールできない以上、進化は偶然の遺伝子変異の蓄積によってのみ進行する。そして生まれた変異体の中で、環境に適応した種のみが
生き残る。これはまさしくダーウィンの主張した進化論である。遺伝子工学によって、進化論は生物学の中では珍しい、100%正しい法則になったのである。
生物学が数学・物理学・化学などのあらゆる学問をの上に成り立つ総合科学であることを示す例である。