応用錯体化学研究室研究内容

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錯体の光化学

金属錯体は有機物に比べて着色しているものが多いことは周知の事実でしょう. 着色しているということは光のエネルギーを吸収して自らは高いエネルギー状態になるということです. こうしてできた高いエネルギー(励起状態)の錯体は,発光等によってエネルギーを放出し,元の状態に戻ることもあるし,他の物質と反応する(光化学反応)こともあります.一般に励起状態の錯体は高い反応性を有しています. エネルギーの低い基底状態より酸化還元能力も高いものがあることもよく知られています. 最近では,次世代表材料として知られるELや,新しいタイプの太陽電池にも金属錯体が使われているのです. しかしその様な発光や光化学反応が詳しく研究されている金属錯体はそれほど多くはありませんでした. というのはかつて研究されてきた多くの金属錯体は光を吸収して励起状態になるものの,(とくに溶液中では)ごく短時間のうちに (10−12秒程度未満)基底状態に戻ってしまうものが多く, これではせっかく反応性が高い状態を保つことができないからです.ところが2000年ころに状況は一変しました.先ほども書きましたが,有機ELと呼ばれる発光素子用の発光材料としては金属錯体が有利であることがわかったからです.ここ10年の間に発光性金属錯体を研究する人は大幅に増え,発光錯体や光化学反応の研究も盛んになっています.

 

発光性金属錯体

本研究室では励起状態を長く保ち,光化学反応試剤として, また光物性材料として応用可能となりうる新しい金属錯体の研究を行ってきました.. 光照射によって蛍光(とくにりん光)を出す錯体にも注目しています. というのは光照射下でりん光を出す化合物は励起状態がある程度長い寿命を持っていて (といっても10−6秒程度ですが先の通常の錯体に比べれば100万倍も長い!!) ,光化学反応試薬としての可能性もありますし,その発光をモニターすることで金属錯体の励起状態について 様々な情報を得ることが可能であるからです.(坪村太郎、西川道弘、"長寿命励起状態を有するd10金属錯体による光分子活性化"、2014-2016年度科学研究費補助金)

研究例

下はdiopというリンを含む配位子をとフェナンスロリンの誘導体を有する銅の化合物です。この錯体は溶液中紫外線照射下で銅錯体としてはかなり強い発光を示すことが分かりました。JSmolというソフトウエアを用いています。図の上でマウスをドラッグさせると分子を回すことができます。右クリックするとJSmolのメニューが出て様々なことができます。詳しくはJSmolを見て下さい。

[Pt(binap)2] [Pt(binap)2]     binapは,不斉合成を目的にノーベル賞を受賞された野依教授らによって開発された配位子ですが, この配位子がついた白金やパラジウムの錯体は光化学の面でも大変興味深いことを見いだしました. 溶液中でかなり強いりん光を発し,励起状態寿命は室温の溶液中で1.5μsです.光照射下 でこの錯体は有機塩化物と速やかに反応すること, この錯体が光照射下でのアルコールの酸化反応の触媒となることなどの興味深い反応も報告しています.

最近 では各種のホスフィン配位子を含む銅(I)錯体や銀錯体も溶液中で発光し,長い寿命の励起状態を有することがわかり,興味を持って研究しています.

(坪村太郎,松本健司,佃俊明 "d10金属錯体の励起状態構造 −発光特性向上の指針確立を目指して−" 2007-2008年度科学研究費補助金)
 

錯体の円偏光発光スペクトル

円偏光発光(CPL)スペクトルというのは、錯体の励起状態における構造の情報が分かる数少ない手段です。当研究室ではオリジナルのCPLスペクトル測定装置を有しており、金属錯体のCPLについても研究を行っています。希土類錯体では多くの研究が行われているのですが、一般の遷移金属錯体での円偏光発光の研究はきわめて限られていますが、以前行っていたCr、Ru、Rhなどの金属錯体のCPLに加えて、近年ではPd(0)やCu(I)などのd10遷移金属錯体のCPLスペクトルについても研究を行っています。
(坪村太郎,佃俊明,"金属錯体の円偏光発光分光による励起状態構造の研究", 2009-2011年度科学研究費補助金)

錯体を用いる触媒反応

鈴木章先生はパラジウムを用いるカップリング反応の開発でノーベル賞を昨年受賞されました.本研究室でも錯体を触媒として用いる研究を行っています.特に現在は有機ハロゲン化物の反応を研究しています.

最近の研究例

左図は赤がパラジウム,緑が窒素,茶色が臭素を表す.

NCNを配位原子とする三座配位ユニットを2つ含む大環状配位子内に2つのパラジウムが入った有機2核パラジウム錯体です.ここに示した構造以外にU型と呼んでいる立体異性体があり,これらを用いる触媒反応を検討し,この錯体が有機ハロゲン化物とアルケンのカップリング反応の触媒となることを見出しました.

 

また,最近ではカルベンという配位子を含む錯体を用いて,有機ハロゲン化物からハロゲン原子を引き抜く反応も研究しています.有機ハロゲン化物には毒性を示すものも多くこの無害化は社会的にも重要です.
 

イオン液体中での錯体化学

イオン液体とは,陽イオンと陰イオンからなる物質で液体となっているものです.食塩が液状になっていると思えばいいでしょう.このイオン液体が,注目を浴びるようになってからまだそれほど多くの年は経っていませんが,新しい反応媒体などとして注目されています.特に金属イオンは溶媒の影響を受けることが多いので,イオン液体中では錯体の性質が大幅に変わることも予測され,発光などの錯体の性質のみならず,その反応性や触媒活性など多くの錯体化学の分野でこれまでとはまったく異なる結果が期待されます.

 

 

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