錯体の一例.ここでは鉄3+イオンに配位子(ligand)としてCN-イオンが6つ結合した錯体(錯イオン)を示しました.
金属イオンに配位子(ligand)と呼ばれる分子やイオンが結合したものが錯体です.高校の化学で錯イオンというものを習った人もいるでしょう.錯イオンも錯体と同じく金属イオンに配位子が結合したものですが,その名の通りそれ自身がイオンであるため +又は−の電気を帯びています.しかし金属は通常陽イオンであり,陰イオンの配位子が結合すると電荷が打ち消しあって中性になるときがあります.この場合はイオンとは呼べないので,このような中性のものも含めて錯体と呼びます. 金属イオンとしてはNa+のような典型元素のときもありますし, Fe2+のような遷移金属の場合もあります.配位子としてはCl−のような単純なイオンの場合もあれば、アンモニアのような簡単な中性分子の場合もあれば,もっともっと複雑な分子の場合もあります.100年以上昔、錯体が最初に作られたころは錯体はどの様な構造の化合物なのかわからず 複雑なものということでcomplexと名付けられ,日本語では錯綜の錯を用いて錯体と訳されました. しかし錯体は単に構造的に興味深いだけではなく,最近はいろいろな面でも応用されており,また自然界においても重要な働きをしていることがわかったのです.この領域は無機化学と有機化学の境界にあり,多くの人がこの分野の研究に参入しています.
有機物は炭素原子を主に骨格とする分子です. それぞれの炭素原子には4つの原子が正四面体の頂点位置に 結合している場合が多いことはご存じでしょう.それに対して,錯体の場合金属元素に結合する原子の数(配位数)は2から12以上に及んでおり,結合する原子数が増えるにつれ構造も複雑になってきます.代表的な構造としては上に示した8面体型構造と,平面4角形型構造とがあります.
金属に結合する配位結合の数を配位数と言います。配位数が4と6の錯体がもっともよく知られていますが、2から12以上までにわたっています。
(金属に炭素が直接結合した)M-C結合を含む錯体を有機金属錯体といいます。有機金属錯体は触媒を始め様々な分野で研究されており、錯体関連分野のなかでも非常に研究者の多い分野である。2002年の野依良治先生のノーベル賞受賞もこの分野であり、日本は特に研究が進んでいる国の1つです。有機金属錯体は、古くはZeise塩のように100年以上昔から知られている化合物もありますが、比較的最近知られるようになった化合物が多く、、多くはここ数十年で合成された化合物です。詳しくはこちら。
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錯体の場合,その中心に金属イオンがあるために,炭素や水素を始め金属イオンを含まない 有機化合物とは異なった有用な性質がいろいろでてきます. 錯体の特徴の一つは色がついているものが多いことです.また,磁石にわずかに 引かれる性質(常磁性)という性質を持っているものも多くあります. これらの性質は錯体の中心にある遷移元素のd軌道が部分的に満たされていることによります. 色がついているということは可視光を吸収するということで,光のエネルギーを蓄える 物質と考えることもできます.詳しくはこちら。
錯体の反応は有機化学で習う反応と比べて異なっている点が多くあります。錯体の代表的な反応には配位子置換反応と酸化還元反応があり,そのほかに有機金属錯体に特有の反応もあります.これらを組み合わせることで触媒反応がどのように進むのかを示すこともできます.詳しくはこちら
錯体は我々の体や多くの生物の体の中でも重要な働きをしています.鉄が不足すると貧血になることは誰でも知っているでしょう.その他の元素も自然界で様々な働きをしています.詳しくはこちら
触媒,光関係,医薬と広い分野で錯体の応用が研究されています.詳しくはこちら